プレイヤーインタビュー

W杯7連覇に挑む。マドンナジャパンの新たな挑戦。

女子野球日本代表 / 出口 彩香

埼玉西武ライオンズ・レディース

W杯7連覇に挑む。マドンナジャパンの新たな挑戦。

■プロローグ

 今回ご紹介するのは、女子野球選手の出口 彩香さん。小学1年生から野球を始め、尚美学園大学時代には4年間のうち3度の日本一を経験。2012年にカナダで開催されたW杯では、世界の最優秀遊撃手に輝く活躍で日本代表(=通称:マドンナジャパン)を世界一に導きました。前回2018年のW杯フロリダ大会時には主将を務め、前人未到の6連覇を果たす原動力となった人物です。

■W杯で6連覇、とてつもなく凄いですね。

 女子野球のW杯は、2004年から2年に1度の頻度で開催されており、今秋で第9回目の大会となります。今回はメキシコが開催予定地で、アメリカやオーストラリア、韓国等の12ヵ国が参加予定。日本は愛媛県松山市で開催された、2008年の第3回大会での初優勝から6連覇をしており、世界一の座を約12年間守り続けています。しかしながら、日本国内での知名度はまだまだ乏しく、プレーだけに集中できる女子野球選手は少ないといった課題もあるのが現状です。

■日本代表の主将でさえも、野球以外の業務があるでしょうか?

 私の場合、大学卒業後の2015年シーズンから2年間、女子プロ野球のチームに所属していました(①京都フローラ⇒②埼玉アストライア)。 その時は生活の中心が野球で、スケジュール的にも試合や練習が最優先でしたね。ただ同時に「野球だけをしていて、その後に社会へ出て通用するのか」という不安にも駆られました。そういった事もプロ退団理由のひとつとして、2017シーズンからは社会人クラブチーム ”ハナマウイ” の創設と同時に入団をし、プレーをする傍らでチームの母体である福祉施設において、デイサービス利用者の送迎等の業務を担うことにしました。
 実際に高齢者の方々と触れ合い、サポートをする中で、野球だけでは身に付ける事のできないコミュニケーション能力等も体得する事ができ、とてもポジティブに取組めています。野球に打ち込める時間としては、プロよりも限られるものの、チームメイトも同じ職場にいる事が多い為、野球において肝心な「チームとしての一体感」も、向上できる環境であるように感じます。チーム創設時には11名の選手しかおらず、選手登録に必要な人数ギリギリで大変な事もありましたが、今では20名超まで仲間が増え、2018年の全日本女子硬式野球選手権大会では日本一を果たし、チームの皆で喜び合う事ができました。

■チームとしても順風満帆の中、2020年シーズンからは出口さんにとって”新たな挑戦”が始まるというニュースを目にしました。

 実は2019年シーズンをもって、このチーム(ハナマウイ)を離れる決意をしたんです。
理由としては、2020年から男子プロ野球を管轄する日本野球機構(NPB)が公認する、史上初めての女子硬式野球クラブチームが「埼玉西武ライオンズ・レディース」として誕生する事に。そこで監督務める新谷 博 監督 (=現役時代は投手として西武ライオンズ等で活躍し、1994年シーズンにはリーグ最優秀防御率を受賞)が、大学時代の私の監督でもあったという御縁もあり、移籍をさせて頂く運びとなりました。

■それはスポーツ界にとってもビッグニュースですね。

 理想を言えば、NPB所属の全球団が女子チームをもつような時代が来て欲しいと思っています。少子化が目立つ日本において異例と言っても良いほど、女子野球の競技人口はここ数年で物凄く増加しているんです。私が高校生だった2009年頃、公式女子野球部がある高校は全国で僅か5校しかありませんでした。それが今や40校近くになっており、10年間で約8倍に増えました。競技人口も学童野球を含めると約2万人がプレーをしており、これからも増加が期待されています。
 しかしながら、試合の観客数は男子のプロ野球とは比べ物にならない程の差があります。そこで、埼玉西武ライオンズ・レディースのように、NPB球団のユニフォームを着てプレーをするチームが増えれば、より女子野球の認知度向上に繋がるのではと考えていますし、今後そういったチームに所属したいという夢をもった子供たちが増えれば、尚嬉しく思いますね。埼玉西武ライオンズ・レディースは、4月に開幕を迎えるヴィーナスリーグ(関東の女子硬式野球チームらで構成)から公式戦が始まります。試合会場は埼玉県の大利根運動公園を中心に行なっていますので、この記事を読んでくださった方々には、ぜひ1度観戦にお越し頂けると嬉しいです。

■出口さんにとって、野球の魅力は何でしょうか?

 成功する為に、必要な要素が多々ある点です。個人においても、ホームランできるだけのパワーがあっても、ボールの芯を捉えるバッティング技術がなければなりません。バッティング練習のみならず、堅実な守備練習も必要です。そういった努力を重ねた選手らが、力を合わせて協力するスポーツだと考えています。
 私自身、小学生の頃にテニスにも打ち込んだことがあり、全国大会で準優勝まで勝ち上がった経験があります。しかし、シングルスで勝った時は、嬉しくても1人で喜ぶ事になるので、どう表現したらいいのか戸惑った記憶がありますね(笑)。その点、野球はチームスポーツという事もあり、皆と喜び合えるスポーツ。今秋のW杯で7連覇を達成し、チームメイトと歓喜の輪を作れるよう、一生懸命練習に取り組んでいきます。この記事を通じて、少しでも女子野球に関心をもって、応援をして頂けると幸いです。

《文:Next Connect 竹内 一平》2020年1月 執筆

■関連情報

出口 彩香 / 1992年7月15日生 (神奈川県 出身)

 兄の少年野球を観に行った事をキッカケに、小学1年時より野球を開始。中学入学後は女子ソフトボール部に入部するも、野球への熱意が冷めず退部し、当時ほぼ全員が男子選手となるポニーリーグ所属の湘南クラブに入団。女子硬式野球部を有していた駒沢学園女子高校へ進学以降は、女子野球を主戦場として活躍。日本代表に選出された2012年W杯では、世界の最優秀遊撃手に選ばれる等の実績を残し、地元の茅ヶ崎市民栄誉賞も受賞。女子野球界にとって欠かさない選手として、女子野球日本代表”マドンナジャパンのキャプテン”を歴任。2020年シーズンからは、新たな挑戦として”史上初のNPB公認女子チーム「埼玉西武ライオンズ・レディース」に所属。

◆埼玉西武ライオンズ・レディース 公式Twitter◆ https://twitter.com/lions_ladies/
◆全日本女子野球連盟 HP◆ https://www.wbfj.website//